1区のすぐ南西、地図で見ると隣接しているエリアがある。旧3区だ。
戦争証跡博物館や日本国総領事館があり、フランス統治時代の邸宅と緑の多さで知られてきた、ホーチミン中心部のエリアである。そして2025年、ここでも行政区分そのものが解体されるという変化が起きた。しかも3区の場合、他のエリア以上に徹底していて、新しくできた3つの坊のどれにも、「3区」を連想させる名前がひとつも残らなかった。
このガイドでは、再編の中身と、意外な「名前の復活」のエピソード、そして観光・生活で関わる施設がどの坊に属するのかを整理する。1区エリアガイドやフーニュアン区エリアガイドと読み比べると、ホーチミン全体でこの再編がどう起きたのかが見えてくるはずだ。
※ 家賃相場と1区までの所要時間は今回調査していません。本記事では確認できた範囲と、確認できなかった点を分けて記載しています。
2025年7月、「3区」は3つの坊になった
2025年6月16日採択・同年7月1日発効の決議(Nghị quyết số 1685/NQ-UBTVQH15)により、3区(Quận 3)は解体された。旧3区にあった坊が統合され、以下の3つの坊(Phường)に再編されている。
| 新しい坊 | 統合元(旧坊) |
|---|---|
| Bàn Cờ(バンコー) | 旧1・2・3・5坊+旧4坊の一部 |
| Xuân Hòa(スアンホア) | 旧Võ Thị Sáu坊+旧4坊の残り部分 |
| Nhiêu Lộc(ニエウロック) | 旧9・11・12・14坊 |
これまで扱った1区・7区・ビンタイン区・タンビン区・フーニュアン区は、いずれも新しい坊のひとつに旧区名や旧坊名の一部がそのまま残っていた。3区だけは、3坊とも完全に別の名前になっている。「3区」でも「Phường 3」でもない名前だけが残った、このシリーズで唯一のケースだ。
「バンコー」は新設の名前ではない。66年ぶりの復活だった
ここが3区のいちばん面白いところだ。「バンコー坊」は今回初めて生まれた名前ではない。
1959年3月27日、当時の南ベトナム政府(Việt Nam Cộng hòa)が行政区分を再編した際、できたばかりの旧3区は次の5つの坊で構成されていた。
- バンコー(Bàn Cờ)
- チーホア(Chí Hòa)
- ダイチエンシー(Đài Chiến Sĩ)
- チュオンミンザン(Trương Minh Giảng)
- イエンドー(Yên Đổ)
このときすでに「バンコー」という坊が存在していた。その後、坊の数は時代ごとに増減し(1975年時点では9坊、1982年には20坊、直近では番号だけの1〜14坊+ヴォティサウ坊という体制)、「バンコー」の名前は一度姿を消していた。それが2025年の再編で、66年の時を経て坊の名前として復活した。1区の「サイゴン坊」復活と似た現象が、3区でも起きていたことになる。
旧10坊・旧13坊は、7月の解体より前に姿を消していた
もうひとつ、見落としやすいポイントがある。2025年7月の最終再編の前に、旧10坊と旧13坊はすでに存在しなかった。
- 2021年1月1日:決議1111号により、旧6・7・8坊が統合され「ヴォティサウ坊」に
- 2025年1月1日:決議1278号により、旧10坊が旧9坊に、旧13坊が旧12坊に、それぞれ統合
- 2025年7月1日:決議1685号により、区そのものが解体
つまり7月の解体時点で、3区はすでに10の坊(1・2・3・4・5・9・11・12・14・ヴォティサウ)にまで整理された状態だった。この10坊が、最終的にバンコー・スアンホア・ニエウロックの3坊へ集約されている。
施設で見る「どの坊か」対応表
書類やアプリで住所を扱うとき、次の対応を知っておくと役に立つ。いずれも公式サイト・地図情報などで確認できた、旧坊番号ベースの住所表記。
| 施設 | 住所(旧坊表記) | 現在の坊 |
|---|---|---|
| 戦争証跡博物館 | 28 Võ Văn Tần, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| 日本国総領事館 | 261 Điện Biên Phủ, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| ホーコンルア(噴水湖・タートル・レイク) | 1 Công trường Quốc Tế, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| タンディン教会(ピンク教会) | 289 Hai Bà Trưng, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| サローイ寺(Chùa Xá Lợi) | 89 Bà Huyện Thanh Quan, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| ヴィンギエム寺(Chùa Vĩnh Nghiêm) | 339 Nam Kỳ Khởi Nghĩa, P. Võ Thị Sáu | Xuân Hòa |
| ホアセン大学(一部キャンパス) | 93 Cao Thắng, Phường 3 | Bàn Cờ |
| ヴァンヒエン大学(一部キャンパス) | 665–669 Điện Biên Phủ, Phường 1 | Bàn Cờ |
| ホーチミン市師範大学(HCMUE) | 222 Lê Văn Sỹ, Phường 14 | Nhiêu Lộc |
| チャンタランサイ寺(クメール寺院) | 164/235 Trần Quốc Thảo, Phường 14 | Nhiêu Lộc |
| パップホア寺(Chùa Pháp Hoa) | 220A Lê Văn Sỹ, Phường 14 | Nhiêu Lộc |
旧ヴォティサウ坊にあたるエリア(現スアンホア坊)に、観光・外交関係の施設がまとまって残っているのが分かる。戦争証跡博物館は1区エリアガイドや専用ガイドでも触れている通り、1区ではなく旧3区(現スアンホア坊)にある。
エリアの特徴
旧3区(解体前)は面積4.93km²、人口327,149人(2024年12月31日時点)。フランス統治時代の邸宅が多く残り、緑の多い区として知られてきた。サイゴン駅(Ga Sài Gòn)も旧3区内にある。
| 成り立ち | 特徴 | |
|---|---|---|
| 旧3区 | フランス統治期の邸宅街+戦後の住宅密集地 | 緑が多く、博物館・寺院・領事館が集まる中心部寄りのエリア |
| 旧1区 | フランス統治期からの中心地 | 官庁・商業の中枢。同じ再編で4坊に |
| 旧フーニュアン区 | 昔からの住宅地・商業地 | PNJ発祥の地。同じ再編で3坊に、名前は残ったが範囲縮小 |
旧3区の特徴は、1区に隣接しながら、大使館・総領事館や大学・病院が多く、落ち着いた住宅地としての性格も強いことだ。エリアを検討するなら、実際に歩いて雰囲気を確かめたほうがいい。
今回確認できなかったこと
正直に書いておく。以下は裏付けが取れなかったため、この記事では踏み込んでいない。
- 旧4坊のうち、どこまでがバンコー坊でどこからがスアンホア坊かという具体的な通り・番地の境界線(「一部」としか資料に記載がなく、分割の詳細は未確認)
- 新しい3坊それぞれの面積・人口(解体前の旧3区全体の数字のみ確認でき、坊ごとの統計は見つからなかった)
- サイゴン駅がどの新坊に属するか(旧3区内にあることは確認できたが、具体的な住所の坊への割り当ては未確認)
- 家賃相場・1区までの所要時間 … 今回は調査していない
エリアを本気で検討する段階になったら、これらは現地で、あるいは仲介会社を通して直接確かめてほしい。
関連ガイド
- 1区エリアガイド — 隣接する中心地。「サイゴン坊」が同じく66年越し級の名前復活で新設
- フーニュアン区エリアガイド — 1区の北に隣接。同じ再編で名前が残ったが範囲が縮んだ
- ビンタイン区エリアガイド — 同じ再編で5つの坊に分かれたエリア
- 戦争証跡博物館ガイド — 旧3区・現スアンホア坊にある博物館の入場料・所要
- 3区の洗濯店ガイド — このエリアの生活密着情報
- ホーチミンで部屋を借りる — 契約の流れと注意点
- 3区の施設一覧 — このエリアのカフェ・病院などをカテゴリ別に